令和2年6月12日に臨時休業するまでの経緯
らっこ病児保育室は、国が定める子ども・子育て支援法の規程により岸和田市から特定子ども・子育て支援施設に認定されています。病児保育事業については国(内閣総理大臣)が定めた「子ども・子育て支援交付金交付要綱」を都道府県(知事)に通知して、都道府県(知事)が市町村にこれを通知します。特定子ども・子育て支援施設は、市町村を窓口にして、国・府・市町村がそれぞれ3分の1ずつ負担した交付金で事業運営されます。らっこ病児保育室を経営している医療法人楽有会は、年度毎に岸和田市と病児保育事業委託契約を締結して、岸和田市の委託事業として病児保育事業を運営しています。子ども・子育て支援交付金は、基本分の金額に年間延べ利用児童数に応じた加算分の金額を合わせた金額と病児保育事業の実施に必要な経費の少ない方の金額が翌年度に市から交付されます。
平成30年8月10日に通知され平成30年4月1日から適応された「平成30年度子ども・子育て支援交付金交付要綱」から、病児対応型の基本分は1か所当たり年額4844000円でうち改善分が2447000円に変更されました。改善分については利用の少ない日等において、地域の保育所等への情報提供や巡回支援等を実施しない場合はこれを減算することになりました。
医療法人楽有会にこの通知は知らされず、平成30年度は基本分から改善分を減算された金額を交付されていました。令和元年度の年度末に岸和田市の子育て施設課の担当役人の上野浩平氏に請求金額について問い合わせ令和元年度の算定表を入手した際に、改善分があることを初めて知りました。令和元年度の請求書で、年末に岸和田市の保育施設に子どもを預けている全保護者に向けて3つある病児保育室の案内をするチラシ広告を配布していたので、これが改善分に相当するのではないかと考え、ダメ元で改善分を減額されない金額で請求しました。地域の保育所等への情報提供を、保育所等にその保護者まで対象を拡げて広い意味で捉えたら病児保育室案内のチラシ広告はこれに当てはまるかと思いましたが、狭い意味で捉えられて、対象が保護者であって保育施設ではないからと岸和田市はこれを認めませんでした。令和元年度の請求については改善分に相当する行いはしていないので減算されても仕方ないと諦めて、今年の4月に改善分を減産された金額で昨年度分の請求書を提出しました。
4月になって今年度の委託契約の締結の交渉が始まり、市役所に赴き交渉の席に着きました。国の定めた規定通りに支払われるべきで改善分は認めて欲しいというこちらの訴えに対し、岸和田市の子育て施設課の今年の担当の頓花伸二氏が資料を手にこれを拒否するので、強引にその内部文書を手元に引き寄せて内容を読み書き留めました。この内部文書には、岸和田市の子育て施設課の前任者の上野浩平氏の名で、「岸和田市の保育園と子ども園には看護師がいて園医もいるから病児保育事業の改善のための情報提供の必要性を認めず、改善分は認めないでこれを減算した基本分だけで予算を立てている、この件について協議はするが今後も認める予定はない」とありました。今後も予定はないと言うけれど他の市ではどうなっているのかと質問には、「大阪府の42の市町村のうち堺市、大阪市、和泉市は改善分を払っていて、岸和田市以外には大東市と泉佐野市ともう一つどこかの計4つの市町村は払っていない」が答えでした。福祉で国が定めている分を何でも交付するのものではなく、執行は市の裁量に任されているもので、岸和田市が決めていいものだと言いました。大東市や泉佐野市にらっこ病児保育室のような本格的な病児保育室はないのでこれらと同列に扱われるのはどうかと思いました。らっこ病児保育室は令和2年度からは改善分に当たる情報提供をしていくから、減算しないで基本分を交付してもらうようその旨を今年度の契約書に書いてもらうように訴えて帰りました。
岸和田市の病児対応型の病児保育室の東光みやまえ病児室、病児保育室ピープル小松里に、前から基本分に改善分が加わっていて知らない間に減算されていることを伝えると、彼らにはこれを知らされていませんでした。この2園には今年度の契約書で改善分を減産した基本分だけを払う契約書を岸和田市が持ってきたら拒否してもらうよう依頼しておきました。そして、これからは改善分を減算されないように令和2年4月から月に1回のペースで地域の保育所等への情報提供を始めました。
毎月の病児保育室の利用児童の利用意見書と登録書を月替りで岸和田市子育て施設課に送るのですが、利用者が0人だっった5月に情報提供のため岸和田の全ての保育施設に送った病児保育通信という名称のニュースレターの4月号と5月号を同封し改善分に相当する活動を実施していることをアピールしました。
これを見た岸和田市の子育て施設課の頓花伸二氏は、当院に来院し、予算には入れていないので令和2年度も改善分は認めず基本分から改善分を減算した金額だけを払うことに応じるよう要請してきました。契約書の第3条に「委託料は、国の定める子ども・子育て支援交付金交付要綱に定める病児保育事業の病児対応型に規定する基準額に定められた、基本分から改善分を控除した額及び年間延べ利用児童数に応じた加算額の合計と補助対象経費を比較して少ない方の額とする」という岸和田市病児保育事業委託契約書の案を提示しました。こんな契約書を受け入れることはできないので拒否しました。
その後岸和田市の子育て施設課の課長の溝端多賀子氏が来院して、今年度の病児保育の委託契約を基本分から改善分を控除した額で契約するように説得してきて、岸和田市は全く歩み寄る気配もなく議論は平行線のままでした。これに似た状況が前にありました。岸和田市は平成26年度からの定期接種の委託料の計算方法の変更と減額を財政難を理由に岸和田市医師会の担当理事に迫り、この担当理事が了承したために日本中で堺市と岸和田市の医師だけが安い金額で定期接種を請け負う状況になったのです。予防接種は国からその市町村の対象人口に応じた定期接種の交付金を交付してるので市町村の赤字経営とは関係ないのに、しつこい交渉をされた担当理事が「餌をもらっている身だから無理を言えない」などと言って折れてしまったのでした。病児保育事業の財源として岸和田市は3分の1です。岸和田の病児保育を始めた者の責任として、理不尽な要求を断固拒否しました。病児保育室を止める可能性についても言及しておきましたが、その可能性を真剣には受け止めていないようでした。
今年度は新型コロナウイルス感染症対策の自粛が効いて、全ての感染症がかってないレベルまで減っています。病児保育室の利用者が非常に少なく、病児保育室の経営は極めて困難になっています。改善分があればかろうじて保育士の給与だけでも確保できるかというレベルです。このような経済状態になっても岸和田市が予算を盾に国が法律を基に定めた交付要綱の通りに支援金を交付しないことは到底受け入れられず、6月半ばになっても委託契約を締結できませんでした。
これ以上契約無しで病児保育室を運営できません。岸和田市病児保育事業委託契約が締結できるまで6月12日でらっこ病児保育室を休業しました。
2020.6.13 2020.6.26加筆 文責 鐙 連太郎 以下全て同じ
弁護士と相談したら不都合な事実に気付きました
平成30年度と令和元年度の2年間の岸和田市の子育て施設課の担当役人の上野浩平氏はこの4月に生涯学習課に異動になっていました。6月15日に、聞きたいことがあったので電話で問い合わせました。任期中に病児保育事業の交付金に改善分が含まれるようになったのに、どうして隠していたのかという問いかけには、「隠していた訳ではない。ご自身で内閣府のホームページで確認できたでしょ」が答えでした。もしこちらが平成30年度に改善分に気づいて請求したら受けましたという問いかけには、「岸和田市がそれを認めないことは変わりないので絶対に受けなかった」が答えでした。国がやるように勧めている病児保育の推進のための改善行為を自分一人の判断で無視したのですかとい問いかけには、「自分の決定ではあるけれど、上に上げて決裁されているので岸和田市としての判断である」が答えでした。これまでらっこ病児保育室は岸和田市から大事に扱われていると信じて、年度途中と年度末には報告して、市の担当者が言われるままの金額を請求してきたのですが、正直がっかりしました。
6月17日に大阪市内の太田・柴田・林法律事務所で、この件について林裕之弁護士と相談しました。こちらが持っていなかった資料を揃えてくれていました。
雇児発0717台12号(平成27年7月17日)で厚生労働省雇用均等・児童家庭局長からの通知にある病児保育事業実施要綱の6実施要件(1)病児対応型③その他イに、本事業を担当する職員は、利用の少ない日等において、感染流行状況、予防策等の情報提供や巡回支援等を適宜実施すること。とあり、これが改善分のことで、国はこれをやるように命じていることを明示されました。岸和田市が必要性を認めるなどというものではなく、病児保育事業をする施設ならこれをやるようと命じていることなのです。本当ならやらなければならない事を気づかずにやらなかった当方にも落ち度はあるけれど、監督する立場の岸和田市は情報提供や巡回指導をするように伝える義務があるはずだったのです。しなければいけない改善分を必要ないからと言ってこれを減額した金額で委託契約書を締結しようというのは違法である可能性が大と指摘されました。改善分は予算にないなどと言い訳にならない、もし予算にないのなら補正予算を組めば良いだけという指摘もありました。法律の専門家から客観的な見解を聞かされこちらの言うことが正しいと言うお墨付きをもらえて気持ちがすっきりしました。
林裕之弁護士から用意して欲しい書類として岸和田市補助金交付規則(平成11年規則43号)があり、それが記された平成30年度岸和田市補助金(助成金)概要調書をもらって帰宅しました。
平成30年度岸和田市補助金(助成金)概要調書には、岸和田市民間保育施設運営支援事業補助金(病児保育事業)として交付対象者(団体)が民間保育施設14園、交付金額55,735,321円、うち特定財源で子ども子育て支援交付金40,585,000円(これは国と府から交付されるお金のことです)、岸和田市独自の出費は15,150,321円、病児保育の他、保育中に体調不良となった児童への緊急対応等を行うことで安心して子育てができる環境を整備し児童の福祉の向上が期待できるとあります。病児対応型の病児保育施設はらっこ病児保育室、東光みやまえ病児室、病児保育室ピープル小松里の3つしかなかったので、知らなかっただけで、実は平成30年にはこの他に岸和田市の民間保育施設に11の体調不良児対応型の病児保育室があったのです。
病児保育事業への補助金がどう分配されたのかを計算してみました。病児対応型の3つの病児保育室に14,225,000円、体調不良対応型基本分が4,371,000円✖️8、稼働半年未満の体調不良対応型基本分が2,186,000✖️3とすれば体調不良児対応型の病児保育室に41,526,000円で、交付金総額の55,735,321円から病児対応型の3つの病児保育室の14,225,000円を引いた差額の41,510,321円とほぼ同じ金額になります。
ここで岸和田市の子育て施設課の課長の溝端多賀子氏が言っていた事を思い出しました。課長が岸和田市の予算に計上していないので改善分は認めないと言うので、こちらが令和2年度は利用者が減ることが予想され、去年の金額の枠内に収まり予算の範囲内に収まるから改善分を認めて欲しいと言うと、「岸和田市の民間保育施設に看護師を配置するよう努めてきてやっと全園に看護師を配置できた。利用者が増えた分なら払うけど、それ以外に病児保育に回す金はない」と言っていました。つまり、岸和田市は体調不良対応型病児保育室を設置すると言うことで国と府からお金を引っ張ってきて、それまで看護師のいなかった保育施設に看護師を配置していたのです。
確かに保育施設に看護師は必要でしょう。でも看護師がいるのが当たり前なのであって、そちらに回すお金のために、らっこ病児保育園のような病児対応型の病児保育施設に払うべきお金を払わない言い訳にはなりません。ちなみに、令和2年度の体調不良対応型病児保育室には1つ当たり4,472,000円、らっこ病児保育室には今年度は50人以上200人未満の利用者が予想されるので改善分を減額されたら5078000円が支払われる予定になります。体調不良対応型病児保育室には看護師1名なのに、らっこ病児保育室には看護師1名、常勤保育士2名、非常勤保育士3名、医師1名がいます。看護師を配置された民間保育施設と比べて、らっこ病児保育室は非常に不利な環境に置かれていることに気付かされました。改善分を減産されない額7616000円が妥当です。
らっこ病児保育室が岸和田市に全く大事にされていない事実に気付いてしまい、正直やる気を失いました。
らっこ病児保育室閉鎖という経営的判断
岸和田市は口では「お世話になっています」とか「らっこ病児保育室が一番利用されている」とか言ってきましたが、岸和田市に安く使われてきたという気持ちを拭いきれません。
国や府から引っ張ってきたお金を活用して岸和田市からの出費はできるだけ少なくして保育事業をするのが岸和田流です。岸和田市が費用の全額を支払わなければならない民間保育園のほとんどを、国と府から半分貰えて岸和田市の支払いが半分にできる子ども園に代えたのも岸和田流です。
あぶみ小児科クリニックの設計段階から病児保育室を作ろうと、岸和田市の保育課に初めて行って面談した担当者が「岸和田市の保育課が病児保育をやりたいわけではない。市議会にかけてはみるけれど実現するかは分からない。それでもやりたければ勝手にどうぞ」と言われ、非常に冷淡だったところから岸和田市の保育課との関係は始まりました。保育は社会福祉事業で医療とは別世界でした。そもそも、1年間病児保育をして払った経費と延べ利用児童数から導かれる補助対象経費とで少ない方を翌年に支払われるという仕事は過酷すぎます。1年間持ち出しで翌年支払いです。建設業などで引き渡して支払いはありますが、着手金や中間金がありますし、経費に十分な利益を上乗せするものです。病児保育事業には黒字が絶対にありません。知り合いの小児科医から看護師1名の給料分を稼げると聞いて始めたのですが、保育士分の給料分がせいぜいで看護師分は稼げませんでした。
岸和田市との委託契約などしたくないという気持ちが強くなりましたが、続けるか止めるかの経営的判断は数字でしなければいけません。らっこ病児保育室の9年間の収支を表にして考えてみました。
| 利用者数 | 支出 | 利用料 | 差引額 | 委託料 | 収支 |
平成23年度 | 252
| 9,658,247 | 537,500 | 9,120,747 | 6,650,000 | -2,470,747 |
平成24年度
| 246 | 10,475,491 | 507,500 | 9,967,991 | 6,650,000 | -3,317,991 |
平成25年度
| 606 | 11,423,122 | 1,264,200 | 10,158,922 | 10,150,000 | -8,922 |
平成26年度
| 675 | 18,529,975 | 1,434,000 | 17,095,975 | 10,221,000 | -6,874,975 |
平成27年度
| 513 | 16,437,047 | 1,101,300 | 15,335,747 | 8,711,000 | -6,624,747 |
平成28年度 | 346 | 10,898,798 | 692,000 | 10,206,798 | 6,697,000 | -3,509,798 |
平成29年度 | 461 | 14,594,401 | 922,000 | 13,672,401 | 8,711,000 | -4,961,401 |
平成30年度
| 327 | 15,416,680 | 654,000 | 14,762,680 | 6,781,000 | -7,981,680 |
令和元年度 | 418 | 15,426,655 | 836,000 | 14,590,655 | 8,989,000 | -5,601,655 |
初年度から252人の利用があって、まずまずの滑り出しでした。平成24年度から始業時間を8時から7時半にして、平成25年度からそれまでの就学前から小学3年生までに対象が拡がりました。平成25年度から27年度の3年間は隣で認可外保育園のらっこ保育園を同時に経営していたせいで利用者が多くなっています。これを除くと平成23年度の252人から始まって平成29年度の461人が単体でのピークです。この461人を3年間超えられずにいます。
収支は徐々に悪化しています。看護師の給与が出ないという前提なら300万円の赤字までが許容範囲ですが、平成30年度には790万円の赤字に拡大しています。
令和2年度は4月の利用者が15名、5月が0で、6月が5名で合計でたった20名です。新型コロナウイルスの影響ですが、社会全般の感染防御体制からすれば、この利用者減少傾向はまだまだ続くでしょう。令和2年度は利用者はおそらく50人から200人の間になり、人員削減などをしないなら支出が1500万円に対して、改善分を減額されたら507.8万円が支払われ、約1000万円の赤字が予想されます。1年間朝7時半から夜7時まで働いて1500万円お金を突っ込んで、翌年に500万円報酬を得る仕事なんて請負えるものではありません。会社経営者なら確実に経営者失格レベルです。
これが今年度だけの特別な状態で、今後は利用者が増える可能性があるのならば良いのですがそうではなさそうです。
コロナ以後は在宅勤務が進みます。これでおそらく3割減。始業時に1園だった病児対応型の病児保育室が4園に増えていて、これで2割減が予想されます。全園に配置された体調不良対応型病児保育室の影響は読めませんが、利用者数にはマイナス因子であることは間違い無いでしょう。おおよそ利用者が半分のになることが予想されます。
岸和田市が改善分を認めないなどと言うので真剣に検討した純粋に経営的な判断では、らっこ病児保育室は一刻も早く止めるべきです。会計士は絶対営業中止を勧めます。弁護士もこれは止める良い機会だと言っていました。
岸和田市への感情論だけでなく、純粋に経営的判断でも止めるべきです。もし、岸和田市にらっこ病児保育室ただ1つしか病児保育施設が無いのなら無理して続ける意義があるかもしれませんが、他に3つ病児対応型の病児保育室が、平成30年度段階で11園の、今ならおそらく18園の体調不良対応型病児保育室が岸和田市内にはあります。あぶみ小児科クリニックはらっこ病児保育室をもってその立ち上げに貢献しました。もしらっこ病児保育室がなければ、岸和田に体調不良対応型病児保育室はあっても病児対応型の病児保育室はなかったかもしれません。
これからは、預けている子どもの急な発熱などで呼び出されたら「定員2名の体調不良対応型病児保育室で迎えに行くまで見ていてください」と言うべきです。その日のうちにどこかの小児科を受診して医師に意見書を書いてもらって、翌日に3つ病児対応型の病児保育室でみてもらいましょう。
病児保育事業はそもそも岸和田市が行う事業です。そして岸和田市と委託契約をする価値があるかないかの判断をして、委託契約をするかはこちらの判断です。医療法人楽有会は岸和田市は委託契約をする相手ではないと結論しました。6月23日に岸和田市の子育て施設課の課長の溝端多賀子氏に電話でらっこ病児保育室の閉鎖を伝え、交渉は終わりました。
こうして医療機関併設型の病児対応型の病児保育室が岸和田から消滅しました。
らっこ病児保育室ではネット予約ができて7時半から診察があるので、深夜や朝起きたら熱があって保育園にいけない子どもでも当日に預けることができました。入院治療をするまでではない病児なら病気を理由には絶対に断らずに預かってきました。気管切開、胃瘻の子どもでも預かりました。
最近、病児保育って熱のある子どもは預かってもらえますかなどという質問を以前より受けるようになっていて、岸和田市の病児保育レベルが後退しているのではと危惧しています。40度の熱が出たから病児保育室から呼び出しがあった、自分の保育施設の在園児だけを預かっているなどという保護者の話を聞きます。
後は保育施設併設型の病児保育施設と体調不良対応型病児保育室に任せます。彼らがらっこ病児保育室と同じくらいベストを尽くしてくれることを期待しています。
2020.6.25
らっこ病児保育室閉鎖を回避できたかを検討してみる
9年以上も朝7時半から病気の子どもを預かる病児保育をやり続けることを前提にしてきたから、らっこ病児保育室を閉鎖する決断をしてからも、自分の中でこの決断を消化して納得することに苦戦しました。病児保育は子育て支援であり、社会貢献でもあります。日本には同じように低い収益性に苦しみながらも耐えて病児保育室を続けておられる方々が沢山おられるのに、自分だけ戦線離脱しても良いのか。子どもたちと保護者のために、少々の損失なら甘んじて受け入れるのが大人なやり方じゃないか。これまでそれができていたのだから、これからもやり続けたら良いだけではないか。昔、2人の子どもが続きで水痘に罹って合計2週間休まざるを得なくなり解雇されたお母さんがいて、病児保育室があれば解雇を防げたのにと考えたのが、そもそも病児保育を始めることを意識するきっかけでした。初期に考えていた高い志はどうしたのかと、自問する日々が続きました。
医療法人楽有会、あぶみ小児科クリニックのホームページや路上、電柱、駅、誌面の広告には病児保育室を併設した小児科であることを前面に出してして、らっこ病児保育室はブランド価値の一端を担っています。らっこ病児保育室を閉鎖することは、当面の出費を抑えて健全経営には資するのですが、小児科診療所としてのブランド価値の毀損を引き起こす恐れもあります。病児保育に付随する診療もあるのだから、それを加味して収益を総合的に考えるべきですが、平均で診療単価は4000円ほどなので、それを加味しても令和2年度の予想収益は1000万円の赤字が950万円の赤字になるだけです。
結局のところ、らっこ病児保育室の閉鎖の1番の理由は利用者不足です。利用者が600人以上確保できていれば1000万円の委託料と240万円の診療報酬で1500万円の経費でもバランスされます。利用者を増やす努力が足りなかったのではないか。回避策があったのではないかという観点で検討してみます。
1. 他の医療機関から病児保育利用の意見書がほとんどありませんでした
実はこの9年少しの間に他の医療機関で診療を受けて病児保育利用意見書を書いてもらってそれを手にしてらっこ病児保育室を利用されることは数回しかありませんでした。意見書は診療情報提供書としてコストを算定できるので他の医療機関からもっと紹介があってしかるべきなのですが、病児保育に患者を紹介したらあぶみ小児科クリニックに患者を取られるのではないかという疑心暗鬼が想像されます。このハードルを下げるために地域の医療機関向けに講演でもしたら良かったのかもしれません。
2. 保育施設で保育士らから病児保育の利用を勧められることが少なかったのではないか
保育士たちにすれば、自園の子どもが病児保育室とはいえ別の保育施設に短期間でも預けられることを好まないと推定されます。保育施設の保育士たちの頭の中に病児保育という選択肢をインプットさせる手立てが、病児保育推進のための地域の保育所等への情報提供や巡回支援等すなわち改善分です。岸和田市の子育て施設課は改善分の費用増を嫌うあまり、この機会を与えてはくれませんでした。らっこ病児保育室の病児保育通信には病児保育の実際、保育施設別の感染症流行状況、医療サイドから保育への提案の3本立てで、これこそ情報提供と言っていい内容で好評だっただけに岸和田市からこれを否定されたことへの失望は大きかったです。
3. 保護者への病児保育の案内が足りなかったのでは
らっこ病児保育室の利用者は利用登録書から推定すると、あぶみ小児科クリニックをかかりつけにしている人が半分くらいで残りは他の医療機関をかかりつけにしているようでした。岸和田市在住の子どものおよそ6分の1があぶみ小児科クリニックの患者さんで、その人たちには保育施設に入園が決まったと聞けば病児保育室の案内をしてきました。このホームページではらっこ病児保育室だけでなく他の病児保育室の案内をずっとしてきました。岸和田市のほぼ中央に位置していて駐車場もいっぱいでアクセスが良いと思っていますが、それでも自家用車がなくて自転車や徒歩で病気の子どもを連れて行くことは難しい人も多かったことでしょう。平成25年度の春に小学校3年まで対象が拡がった時に保育施設と幼稚園小学校で掲示してもらうポスターを制作して配布しました。令和元年末には岸和田市の保育施設に子どもを預けている全保護者に向けて3つある病児保育室の案内をするチラシ広告を配布しました。これは本来なら子育て施設課がやるべきことを代わりにやったと評価されましたが、利用者増に一定の効果がありました。
4. 経費の使い過ぎだから赤字経営になったのであって、コストカットすれば良かっただけでは
平成28年3月にらっこ保育園を閉園する際に12名いた保育士のうちパートの3名と常勤の2名が引き続き病児保育室で働きたいと言ってきました。らっこ保育園の園児の嵩上げ分が失くなっても400から600人くらい利用者が見込めると考えて雇い続けました。その後に常勤2名は3回の産休育休をとることになり結果的に常勤0から1名とパート3名でバランスが取れていましたが、育休が終わって常勤2名になると収支が悪くなりました。パートだけにすると定員を6名に下げることになり預かり希望者が多い時期に断りが増えます。病児保育という繁閑の波の大きい事業形態では多い日に合わせて多い目の保育士を雇わざるを得ず、ギリギリの人数まで雇用をカットする非情さを発揮することができませんでした。
日本の病児保育始業は病児保育施設では医療機関併設型の病児保育室がリードしてきたのですが、制度設計上医療機関には非常に不利になっています。
らっこ病児保育室の開業から閉鎖までの経過は典型例です。公表して残しておくべきことと考え、ここに記しましました。
2020.6.26