新型コロナを迎え撃つ
更新日:2021/01/12
2020年2月までは普通でした。新型コロナウイルス感染症の第1波が始まり、緊急事態宣言が発令されると、世界が変わりました。新型コロナの流行を抑え込むために社会の全員がマスクをするようになると、あらゆる感染症が激減しました。「風邪は万病のもと」は本当でした。人々が普通の風邪にさえ罹らなくなると、花粉症も喘息患者も減り、新生児科の入院さえ減りました。外来で新型コロナを伝染される懸念による受診抑制が起こって各科で外来患者が減りましたが、患者そのものが激減した小児科の患者の減りが一番でした。
あぶみ小児科クリニックでも2020年春には売り上げが半減し、このままでは年末までに資金が枯渇して支払い不能になることが予測されました。特別な融資は受けず、6月から毎月の役員報酬を半分にして、職員の夏のボーナスも減らさざるを得ませんでした。当初は岸和田市民病院と徳洲会病院の2箇所だけだった新型コロナ患者を診る発熱外来に新型コロナ疑いの患者を紹介していましたが、4月21日から自院でPCR検査の検体を採取して保健所に送るようになりました。新型コロナを診るしか生き残る道はないと覚悟して、4月20日には、新型コロナは大人の方が患者が多いので「新型コロナ患者を診るために」内科も標榜しました。
あぶみ小児科クリニックは元から5つの診察室を、感染症でない病気とワクチン・健診用の2室、普通の感染症用の2室、伝染力の強い感染症用の隔離診察室に分けていましたが、普通の感染症をさらに熱の有無で2つに分けて、患者を4つに分類してトリアージするようにしました。新型コロナ疑いの患者は受付・待合室を通さずに隔離診察室に直行してもらうことで、待合での他の患者との接触を無くしました。入退室毎に換気と消毒をして、診療所としては理想的な発熱外来を運営しています。保健所に検体を送っていたPCR検査は7月28日からは検査会社で検査するようになりました。結果判定に2日間かかるPCR検査だけでなく、7月31日には迅速検査の抗原定性検査を導入し、結果判定に35分かかる検査キットから、9月からは判定時間15分のものに変更しました。
コロナ禍で分かったことの一つは日本はとても自由な国だということです。緊急事態宣言といっても、外出自粛の要請でしかなく、他国のように罰則を伴う外出禁止や都市封鎖は為されませんでした。要請に応じるか否かは個人の自由です。医療機関に対しても、都道府県が立てた計画の外来と病床の数を確保することへの協力の要請でしかなく、医療関係者が診療を強制されることはありません。ワクチンも治療薬もない新型コロナなので、医師が自分も職員も罹りたくないから患者を診たくないと言うのなら、それが許されています。でも、一般の人が流行拡大阻止に協力している状況では、仕事なのだから医療関係者は新型コロナを診るように努力すべきです。医療はそもそも危険な仕事で、仕事がらみで病気になって死ぬのを殉職というのなら、刑事ドラマでは殉職することがよくある警察官よりも高い率で、前から医師や看護師は殉職しています。火傷が怖いから火事の現場に行かない消防士は不適格か訓練不足です。新型コロナに罹るのが怖いから患者を診ない医療関係者も不適格か感染防御訓練不足です。
実際は建物のせいで発熱外来ができないという医療機関が多いようです。待合室と診察室が1つずつしかないから、院内感染を防ぐためには、時間外でしか新型コロナ患者を診られないところが多いのです。かかりつけ患者に限定して診る発熱外来はB区分の医療機関です。かかりつけ患者だけでなく他からの発熱患者も診る発熱外来がA区分の医療機関です。さらに、コロナ患者を診ることを公表しているところと、公表しないで保健所への問い合わせを介して患者を受け入れるところの2種類の医療機関があります。
幸い、春先のように感染防御のマスクや防御着などが足りないという事態は解消されました。あぶみ小児科クリニックは、開院以来、外来患者を全員トリアージする体制で、発熱外来用の隔離診察室なら初めから用意しています。全診療時間で全ての発熱患者の受け入れが可能であると公表している本格的なA区分の発熱外来で、新型コロナを迎え撃つ備えも万全です。2月に院内に導入予定のPCR検査の機械が稼働すれば、鼻腔拭い液で抗原定性検査15分、PCR検査1時間で結果判定できるようになります。
2020年の春には死ぬかと思いましたが、死なずに済みました。ここから暫くは新型コロナウイルス感染症を主食にして、生き残るつもりです。
2021.1.12